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プロダクトデザイナー坪井浩尚が語る、人とモノの関係 インタビューアー:My VAIO MAGAZINE編集部

プロダクトデザイナー坪井浩尚が語る、人とモノの関係 インタビューアー:My VAIO MAGAZINE編集部

テーブルにグラスを置くたびに、水滴が桜の花びらを描いてゆくグラス「SAKURASAKU glass」などの作品で、デザイン界に彗星のごとく現れた坪井浩尚さん。ありふれた日用品にデザインという名の魔法をかけて、見る人に笑顔と驚きをもたらす新しい感性は、国内外から注目を集めています。そんな坪井さんに、これからの時代に必要とされるデザインについて伺いました。

必然から生まれるデザインを求めた代表作「SAKURASAKU glass」

SAKURASAKU glass

日本人の美意識を日用品に昇華させた「SAKURASAKU glass」は、江戸川伝統工芸士の技術により実現

VOL

内部設計を見直して、ボタン操作をなくした「VOL」。たばこ「KENT」のノベルティとして制作された。

編集部:まずは坪井さんご自身の経歴や代表作についてお伺いします。デビュー作のひとつ「SAKURASAKU glass」は、どのように誕生した作品なのでしょうか?

坪井:「SAKURASAKU glass」は、2006年にロンドンの「100%DESIGN」という展示会で発表した作品です。それまでデザイナーとして仕事をしていたわけではなかったのですが、建築模型の職人をしながら、多くの人の目に触れる場所で自分を試してみたいと思ったのがきっかけです。

当時はモノが持つパワーに興味がありました。筆を使うと自然と文体が変わったり、女性が着物を着ると話し方まで変わるように、意識に触れず日常に当たり前に在るモノの作用によって自分は勝手に形成されてゆきます。それは意匠や機能のみでなく、そのものがおかれている環境や状況によって様々に「うれしい」とか「迷惑だ」とか感じることのできる人間の意識や認知に興味がありました。

意匠が同一のはずの電球が状況によって全く別の質感を生んだり、本来は迷惑な存在のはずのグラスの結露をが逆に嬉しく思えたり…知っていると思っていたモノの輪郭が霞んだり、再発見することで当たり前の世界がだんだん疑わしく思えてきたりする。

最近手がけた「VOL」という作品もそういった関係性のデザインといえるかもしれません。ステレオのボリュームつまみを連想する形をした、携帯音楽プレイヤーやスマートフォンなどをつないで使うポータブルスピーカーです。回すという一つの行為と既存の意匠に全てが集約された状況をデザインしています。

時代が求めているもの、社会に機能するものを形にしたい

編集部:ご実家が寺院で、禅宗の修行の経験もあると伺っています。そうした体験は、現在の活動にどんな影響を与えているのでしょう。また新しい作品を生み出す上で、どんなことを心がけていらっしゃいますか?

坪井:実家は小さな寺院を営んでいますが、仏道修行は自分の使命と思い、学生時代に決断し本山で修行しました。黒い世界で白が映えたり、外国に行くと日本の事がより鮮明にわかるように、文明や情報、自意識といった全ての自由や欲求を持たない非日常の極限的な世界に身を浸す事で、「日常」という比較対象をはっきりと感じられるようになりました。下山した時の街のざわめき、洋服の身軽さ、椅子に座ることで得られる休息感、自分が日常で許されているもの全てを"違和感"として感じられた経験は今でも大切にしています。

坪井浩尚

坪井浩尚

仏教の基本理念に因縁というものがあります。この世のあらゆるモノも出来事も全ては関係性の中で成立していて、それを離れたところにあるものは何一つないという考え方です。今になって思えば、日本で生まれた事も、お寺で育った事も、自分が経験した全てをデザインと切り離さずに考えるようになったのは、この経験からなのかもしれません。

ソニーの製品では、小学生の頃、店頭でウォークマンと出会った衝撃を鮮明に覚えています。 家で聴いていた音楽を外に持ち出す事は、当時リスクも大きく、常識では考えられないことだったと想像しますが、驚きと賞賛を含んだ「これが欲しかった」という感覚は多くの人を一瞬のうちに幸せにしました。幸せなデザインというのは、どれか一方ではなく、どの観点から見ても全てを幸福にしてしまうような所がありますが、まさにウォークマンはその代名詞のような製品だったと思います。

そういえば先日、あるクライアントから「自分のスタイルを要望に合わせて形作るデザイナーが多い中で、坪井さんは世の中の興味を形作るデザイナーだ」と言われ、とても嬉しかったんです。前者はクライアントが変わっても、時代が映っても同じデザインですが、後者には常に正解がない。
これまでソニーが手がけられた数々の名器のように、いつまでも出会った時のその感触が残るような「幸福なデザイン」をいつか手がけられたらと思います。

坪井浩尚

坪井浩尚 / Hironao Tsuboi
プロダクトデザイナー

1980年生まれ。04年多摩美術大学環境デザイン科卒業。卒業後曹洞宗大本山總持寺にて雲水として安居。06年デザインブランド、100%の立ち上げに参画するとともに、これまでの同ブランドのデザインを手がける。07年Hironao Tsuboi Designを設立。代表作にiida「LIGHT POOL」middle「Humidifier」100%「Sakurasaku glass」等がある。対象の環境を柔軟に読み解く、多角的なアプローチに定評があり、現在まで日用生活品から家電製品・家具など、プロダクトデザインを中心に幅広い製品を手がけている。受賞にはred dot Award (独), D&AD global awards(英), Good Design Award等。08年度の I.D.Magazine(米)『 World emerging designers 40 』に選出。09年D&AD (英)『Creative Faces』Japan's most exciting new design talent に選出。10年ELLE DECO(日)YOUNG JAPANESE DESIGN TALENT 2010に選出。
http://www.hironao-tsuboi.com

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