本文へ

製品情報>“VAIO”>My VAIO>My VAIO MAGAZINE>Item>江戸筆職人・亀井正文が考える理想の筆

My VAIO MAGAZINE

江戸筆職人・亀井正文が考える理想の筆 インタビューアー:My VAIO MAGAZINE編集部

江戸筆職人・亀井正文が考える理想の筆 インタビューアー:My VAIO MAGAZINE編集部

江戸時代に寺子屋の発展と共に生まれた工芸品、江戸筆の職人である亀井正文さん。この道うん十年、数々の日本の書道家たちが、こぞって彼の筆を愛用する。 そのワケとは?現在、関東で10人に満たないと言われる職人が守ってきた伝統文化や、書の楽しみ方、理想の筆についてうかがいました。

使い手のことを考え、6年以上の歳月をかけ完成させる筆

──まずは江戸筆の歴史と特性について教えてください。

亀井正文

亀井正文

重ねて書いた際に立体感が出てくるのが特徴

亀井:筆自体は古くは西暦600年頃に仏教文化や漢字の渡来により日本に根付いたのですが、江戸筆は江戸時代に寺子屋が急速に発展し、そこでの需要により生まれたものになります。現在も関西を中心に普及している筆の形式を「固め筆」と言いまして、筆先の半分から3分の2を崩して使って書く構造になっているのですが、逆に江戸筆だと軸際まで墨をつけて使用する「捌き筆」という構造になります。また制作工程の大きな特徴としては、毛の選別、下拵え、仕上げに至るまで、すべて一人の職人が作業を行うことが挙げられます。オーダーメイドの場合はまずお客様の筆跡を拝見し、その上で約半年かけて筆を作り上げていくのですが、その際に羊毛や馬など7種類の動物の毛を、都度、比率を変えながら筆に仕上げていきます。組み合わせは1,000種類ほどで、レギュラーでも400種類ほどあります。また素材として使う毛もよく墨と馴染むよう6年近くかけて“火のし”や“毛揉み”という作業を行い、最善の状態にもっていきます。

このような作業を通し仕上げた筆は、最終的に使い手であるお客様に合わせた状態になりますので、例えば毛の配分の違いによって墨持ちや“かすれ”具合に違いが生まれます。それが使い手の個性にも繋がり、書を楽しむ醍醐味にもなっていくのだと考えています。

一般に流通している筆の多くが化学繊維の入ったものになりますが、そういったものと我々が作る筆の違いは実際に試し書きして頂くと一目瞭然です。動物の毛を丁寧に加工して出来た筆は、墨持ちが全く違うので、ハネの部分などに独特の勢いや墨の濃淡、“かすれ”といった個性が生まれます。また墨持ちの良くない化学繊維と同様に筆ペンなどの場合も、一定の量で統一された黒になってしまい、筆跡に個性は生まれ難いです。

試行錯誤を繰り返し、自分の中に枠を設けない

──伝統を守り続ける“筆職人”という職業をどう考えていますか。

亀井:私自身、四代目としてすんなりこの道に入った訳ではありません。最初は自動車鈑金工として全く別の道を歩んでいました。先代にあたる父を見て育っていただけに、筆職人は大変な労働環境だと重々認識していましたので。ですが20代のうちに職場で事故に遭い、自動車鈑金工としての道を諦め筆職人の修業を始めることにしまして、以来はモノづくりの奥深さを日々感じています。

実際、江戸筆作りの作業の合間に、様々な時代の筆を復元するという試みを行っていますが、そういった研究をしていると筆の持つ歴史や凝縮された技術を感じますね。江戸筆とは異なる素材や制作工程に出会うことで、筆から各々の時代や文化を伺い知ることが出来ます。また資料館や美術館にあるような歴史書、和歌集などの原本を見れば、筆跡からどういった筆を使っていたかも察することが出来ます。それらを知り、体得していくことで自身の筆作りの幅が広がっていくと感じています。
加えて自動車鈑金工の時に学んだ技術も、筆の制作工程で役に立つことがありました。今目の前にいるお客さまにとって最善な筆を提供することが信条ですので、モノづくりを通してあらゆることに情熱を傾け、取り入れられるかどうか積極的に検証してみることは大切ですね。

ただ筆作りに100点満点はないと思っていまして、理想としては80点くらいの状態のものを作っていたいと考えています。残りの20点分は使い手が実際に愛用していく過程でクセなどが染みつき育っていくものだと思いますので、そのためにも自身の筆作りに枠を設けず、どれだけ使い手にマッチした筆が作れるか、ということを常に考えています。

筆の良さは使い手の個性がそのまま筆跡に反映していくところだと考えています。年賀ハガキにたった一文字でも筆文字を載せれば、送り主の意思や心遣いをより感じ取ることが出来ますよね。それはあくまで情報として存在する文章とは異なるメッセージの届け方になると思っています。便利になった今だからこそ、自分らしい文字を習得することが大切で、それを最大限お手伝い出来るように筆を作り続けています。

現在購入できる筆(仮)

代々受け継がれた技術の結晶が現在の筆に宿っている

アイスクリームスプーン「15.0%」

たった一文字筆文字を載せるだけで、まったく印象の異なるハガキになる

亀井正文

亀井正文
江戸筆職人

1949年生まれ、東京都出身。74年より先代の父に師事し、四代目として筆作りの世界に入る。99年には東京都知事より伝統工芸士に認定され、現在も江戸筆の伝統を守り続けている。顧客は武田双雲や柳田泰山といった書家から、書道愛好家、絵師などの職人まで様々。またその品質が海外でも認められ、ヨーロッパや中国などからの発注も多い。扱う筆は書道用の筆を中心に1000種類以上に及ぶ。

過去の記事はこちら

他カテゴリの記事を読む

ページトップへ