発掘!アーティスト

未開拓のシーンを切り開くエクストリームなアーティストをご紹介。
案内役は、連載オリジナルキャラクターのせん太くん。

2014.02.20

Excelで描く!
定年後に花開いた画家
堀内辰男の才能

プロフィール

日本各地に存在するさまざまなエクストリーム・アーティストをせん太くんが訪ね歩き、アートの極意を聞き出していく連載シリーズ「発掘!アーティスト」。第5回はExcel画家の堀内辰男さん。13年前に勤めていた企業を定年退職した後、自己流で始めたのが表計算ソフトのExcelで絵を描くという衝撃的な組み合わせのアートでした。今回もせん太くんが堀内さんのご自宅を訪問。孫気分で居座りつつも、堀内さんの溢れ出る才能を体感してきました。

パソコンも絵画も知らないところからスタートしました。

せん太:うひょ~。本日は絶賛積雪中で、凍え死にそうッス! こんな日に取材なんてついてないッス。

堀内辰男:せん太くん、はじめまして。わざわざ群馬までようこそ。このエリアでも積雪はなかなかない出来事だから、逆に幸運なのかもしれないよ。

せん太:なるほど!しかもその分、堀内さんの家に入ると暖かさを感じるッスね!孫気分で取材させて頂きやす。

堀内辰男:まぁ、茶菓子でも食べながらゆっくり話そうよ。部屋を見渡してごらん。沢山絵が飾ってあるのが分かるだろう。これらはすべて私がExcelを使って描いたんだよ。

せん太:Excelって…… あの表計算ソフトのExcelッスか!?エクストリーム過ぎてもう何から聞けば良いのか分からないッスよ。

堀内辰男:Excelにはオートシェイプという図形描画機能があるだろう?何しろペイントとかはラスター方式だからね。極限まで拡大すると点の集合体になっちゃうのが嫌なんだよ。私はベクター方式で、輪郭基準で絵を描いていきたいんだ。それには私の中で「絵という抽象的な存在を、数式で表現したい」という理念があるんだよ。かつてダ・ヴィンチなどがそうであったように、数学や設計の知識を活かして複合的にアートを掘り下げていきたいんだよね。同じオートシェイプ機能があるWordだと、出力するときにキャンバスサイズが決まっているから、今はExcel一択で活動しているね。

せん太:そうは言っても、絵を描くための専用ソフトとかあるじゃないッスか?なぜExcelでやり続けているんスか?

堀内辰男:あくまで誰でも持っているような、汎用ツールじゃなきゃ駄目なんだよ。私は定年までエンジニアをやっていて、実は有名な文房具や医療器具を設計していたんだよ。だからこそ、多くの人が使えるツールという視点は、自分の中で大前提としてあるんだよね。それに何と言っても安いしね。

せん太:だから専用ソフトとかには敢えて進まなかったんスね。

堀内辰男:初めて家にパソコンが届いたときに、初心者なので何をしたらいいか分からなくて悩んだよ。そこでふと若い人たちがExcelで図形を作っているのを目にして、この手法なら絵すら描いたことのない私でも描ける!と閃いたんだよね。この手法を極めてマニュアル化していけば、それが私のようにパソコンを持て余した人が、パソコンと絵の両方を楽しむきっかけになると思っているんだ。

せん太:最初はどうやって絵を始めたんスか?そこも初心者だったわけスよね?

堀内辰男: 自分が学生時代に下宿先の叔母からもらった一株の君子蘭の花を、数十年も育て続けていてね。まずはそれを描いてみることにしたよ。そこから何回も花を描き続け、他のモチーフも描くようになって、自分の技術を向上させていったんだよ。

Excelじゃなきゃ出来ないアートを目指す。

せん太:どういうところに気をつけて絵の勉強をするんスか?

堀内辰男:まずは細かい部分を、自分が思い描いた通りに再現出来るよう練習し続けたね。花びら一枚描くにしても、実はとても沢山のオブジェクトを積み重ねているんだ。更に透過性などExcelならではの効果を使っていくと、仕上がりのクオリティが上がって表現の幅が広がっていくよね。そうして、今度は構図を勉強していったんだ。だから手段はExcelだけれども、積み重ねていることは至って一般の絵画と同じだと思うよ。

せん太:なるほど!でもいわゆる絵画の構図って、難しくないスか?

堀内辰男:そうだね。10年くらい自己流でやってから、武者修行の意味も込めて美術展に何度か出展してみたんだよ。そうしたら、いろいろな方から批判されまくってね。自分としてはちょっとカチンときたけど、一方でレベルアップするチャンスだとも感じたんだ。だから自分のことを批判した方に、作品の何が悪いのか徹底的に聞いたんだ。そこで構図の取り方などを沢山教えてもらって、再び出展して批判され、またコンタクトして……ってその繰り返しだよ。

せん太:堀内さん確か73歳ッスよね?これぞ飽くなき向上心!

堀内辰男:今となっては周りで批判めいたことを言う人も少なくなってきたから、いっそ女子高生とかに観てもらったりした方がいいんだよね。ばっさり「面白くない絵ですね」って言われたら、それが一番自分を育てるから。

せん太:プリントアウトして飾るのは、やっぱり絵画に対するこだわりが強いからッスか?

堀内辰男:そうなんだよ、せん太くん。分かってくれるかい?パソコンの中だけで完結していたり、Webサイトで展示しているだけでは、絵画のスケールが伝わり難い部分もあるし、何より観て頂ける人に限りがあるよね。ネットで公開しつつ、あくまで展示も続けているのは、自分の中でも大事にしているこだわりだよね。業者に頼んで出力するとすごく高くついてしまうから、自宅でA3でプリントアウトをして、それを並べて妻と2人で貼り合わせているんだよ。

せん太:ずっとExcelを使い続けていて、不便に感じることは無いんスか?使い方が特殊なだけに、滅茶苦茶ありそうな気もしやすが……。

堀内辰男:バージョンアップが必ずしも進化に繋がっていないこともあるよね。新しいバージョンに移行した際に、結構仕様が変わることも多いから、その辺はエンジニアだった私が思う日本のモノ作りとは少し違うな、と感じることはあるね。あとは、たまにバグを発見したりするね。

せん太:なるほど。それは堀内さんならではの視点かもしれないッスね。堀内さん自身は、今後どういう風に自分の作品をバージョンアップさせていこうと思ってるんスか?

堀内辰男:これまでは奥行きや構図といったことに重点を置いていたけど、今取り組んでいるのは、Excelだからこそ表現出来るような要素を取り入れることだね。例えば1つのオブジェクトを多用して、観ている人によって感じ方が異なるような抽象性の高い作品にも挑戦しているよ。他の画家さんの作品を観ていると「あぁ、ここはタッチペンで描いた方が表現しやすいなぁ」と思うこともあるけど、私はもう歳が歳だし、当面は手法ではなく表現部分の変革で自分を高めていこうと思っているよ。

スクールでExcel絵画の講師もしているから、日々いろんなところから新しいことを吸収していて、毎日が刺激的だね。

せん太:堀内さんと話していると、何だかパイオニア精神と、筋の通った侍魂を感じずにはいられないッス。

堀内辰男:定年近くなってくると、人は社会で自分の築き上げてきたポストに固執したくなると思うんだよ。でも、自分を一旦真っ裸にして取り組んで、得られた結果が正味の自分なんだよね。伊能忠敬だって隠居してから日本地図作りにチャレンジしていったんだから。いつだって始めようと思えばできることはあるよ。

せん太:堀内さんのゴールってどこなんスか?

堀内辰男:私のやっていることは自己満足の世界だから、永久にゴールはないよね。描いては、そのレベルを上げるために世に出し、その反応を受けてまた作品制作を続ける。これが一番大事だよ。

せん太:お話ありがとうございやした!出会う前はすごい変わったおじいさんだったらどうしようと思ってたんスけど、話を聞いた今は憧れの気持ちでいっぱいッス。おいらも堀内さんみたいな歳の重ね方したいッス!

堀内辰男:ははは、ありがとう。でもせん太くんは歳取らないキャラでしょ!

せん太:おっとそれは言っちゃ……。

堀内辰男さんのExcel画を動画で紹介!

堀内辰男 Profile

Excel画家
定年退職を目前にパソコンを購入した際、Excelで絵を描く「パソコン画」という手法に出会う。2000年頃から活動を始め、2006年にはOffice活用情報サイト「moug」が開催した「オートシェイプでお絵かきコンテスト」にて、絵画・人物画部門で大賞を受賞。その後も、3年連続で入賞を果たした。近年は、在住する群馬県館林市の美術展への出品、大型絵本の制作、スクール講師など活動の幅を広げている。現在73歳。
堀内辰男オフィシャルサイトhttp://www2.odn.ne.jp/~cbl97790/

せん太 Profile

田舎から出てきたものの、やりたいことが見つからず、日々自分探しをしているピーターパン男子。今回の連載を通しさまざまなアーティストに会うことで、自分が極めるべき道を見つけたいと思っている。