発掘!アーティスト

未開拓のシーンを切り開くエクストリームなアーティストをご紹介。
案内役は、連載オリジナルキャラクターのせん太くん。

2014.04.17

超繊細!常識を覆す
“線”による切り絵アート

プロフィール

日本各地に存在するさまざまなエクストリーム・アーティストをせん太くんが訪ね歩き、アートの極意を聞き出していく連載シリーズ「発掘!アーティスト」。第7回は切り絵アーティスト、「切り師」の長屋明さん。長屋さんによる切り絵アートの最大の特徴は、極細の線で表現しているところ。取材中に絵を千切ってしまうのではないかとハラハラ、ドキドキしながらせん太くんがリポートして来ました。

切り絵の原点は笹バランなんです。

せん太:もうそろそろゴールデン・ウィークだけど、おいら何にも予定が詰まってないや……しょぼん。やることも特にないし、寝て過ごすしかないのかな。

長屋明:それならせん太くん、僕と一緒に切り絵の世界を極めてみないかい?

せん太:おっと!本日取材でお世話になる長屋明さんじゃないッスか。はじめまして!長屋さんって普段は日光にお住まいなんスよね。

長屋明:そうだよ。今日は取材ということで東京の事務所まで上京してきたんだよ。この場所を活動拠点にしていて、ギャラリーとして自分の作品も飾っているんだよ。

せん太:うひょぉ!確かに壁の絵をよく見たら全部切り絵ッスね。言われなきゃ分からないくらい細くて、まるでデッサン画みたい!これは衝撃的。

長屋明:実はこれ、すべて自己流で編み出した作風なんだよ。元々、自分が寿司屋で働いていた時期があって、板前さんには笹バランっていう技術があるんだけど、それを横で見て自分もやってみたいと思ったのがきっかけでね。自宅に戻って板前さんの技を思い出しながら、試しに紙とカッターで作ったんだ。最初は七夕飾りだったんだけど、意外に上手くできて楽しかったんだよね。それで誰かに教わるでもなく、個人的に趣味として作り続けることにしたんだ。

せん太:なるほど、笹バランがルーツなんですね。でもまったく誰にも教わらず切り絵制作を続けたんスか!?それはどれくらいの期間なんスか?

長屋明:そうだなぁ、大体27年くらいかな。別にアートを学んできた人間でもないから、これがアートだという認識もないままコツコツ続けていたんだよ。ただ、その後独立して開いた自分の経営する飲食店でポップとして飾って、お客さんに楽しんでもらうことはしてきたかな。そしたらある日、お店に取材に来た地方新聞社の方が、たまたまポップを発見してくれて「これ、すごいから個展やりましょう!」と勧めてくれたんだ。それで初めて自分のやっていることがアートなんだと認識したんだよ。

せん太:27年間発表もせず、ひたすら作り続けてきたんスか?よく続きやしたね。長屋さんって切り絵が大好きなんスね !

長屋明:そうなんだよ!今でも切ってる時間の方が落ち着くくらい、僕にとっては切り絵はなくてはならない存在なんだよね。でも僕にとって切り絵作りは日常でも、アーティストとしての活動となると分からない事だらけで、当初はとても戸惑ったなぁ。個展をするにも集客方法がまったく分からなかったから、最初は1日2~3人くらいのお客さんの入りだったんだよね。どこのメディアも取り上げてくれなかったし。ただ有難いことに、お越し頂いた方たちの口コミが急速に拡大していってね、お客さんの数が日を追う毎に倍々のペースで膨れ上がっていったんだ。最終日は数百人の来場者を記録して、新聞社も3社くらい取材に来たから自分でも驚いたよ。

切り絵の概念に捕らわれない発想が大切。

せん太:すごい!そこで長年蓄積してきたものが一気に花開いたんスね。

長屋明:一方で、そこから先は結構自分の中でも葛藤があったね。それまでは、それなりの手応えがあったんだけど、2回目の個展を東京で開催することになったあたりから、切り絵アーティスト一本に絞って活動し、プロとして拠点を東京に設けることになった時に、どこかで切り絵師としての自分の殻を壊さなければならないと気付いたんだ。それまでの趣味的な活動とは明らかに一線を画すからね。上手いとか技術的な評価の話題に終始せず、切り絵アーティストとして自分らしさを表現するにはどうしたらいいか、それが課題だったよ。

せん太:なるほど、アーティストとして人に作品を観られるようになって、さらに自分の中で高みを目指す必要が出てきたわけッスね。

長屋明:僕は今まで自己流でやってきたから、切り絵の概念に捕らわれない発想が自分の強みだと考えているんだ。だから切り絵に興味がないような層の人にも振り向いてもらえるくらいの、斬新な手法を編み出したかったんだよね。そこで色んな人の話を聞くうち、自分の中に切り絵は和柄がベースだという固定概念があったことを認識して、ならばそれを壊す作風を編み出してみよう、と考えたんだ。

せん太:そこから生まれたのが、この細い線の作風なんスね!?

長屋明:そうだよ!最初は絵柄を和風から洋風に変えてみたんだけど、描いたところで和筆の太さだと結局和っぽい作品になっちゃう。どうしたものかと悩みに悩んで、たまたまふざけてペンで書いたイラストを切ってみたんだ。そしたら今までとまったく作風の異なる、洋風イラストに合った作品が完成したんだよね。今、この手法で切り絵ができるのは、多分世界で僕だけなんじゃないかな。

せん太:なんと!でも確かに長屋さんにしかできなさそうッスよね。だってめちゃくちゃ細くて、やろうと思っても絶対できないスもん!これはもはや切り絵の範疇に入ってない、新しいアートだと思いやす。

長屋明:そう言ってもらえると、とても嬉しいよ。この技術を習得したのはここ数年の出来事だから、今は自分の中でも新しいビジョンが開けている最中なんだよ。この感動を沢山の人と共有するのが楽しいんだよね。ニューヨークでも個展を開く機会があったんだけど、あまりに細いから、窓にイラストを描いてると思われちゃって(笑)。これは切り絵なんだよって説明したら「クレイジー!」ってみんな驚いてたよ。

せん太:長屋さんの作品への衝撃は、万国共通なんスね。海外でも切り絵文化っていうのはあるんスか?

長屋明:フランスとかは非常に盛んだね。でも僕の作風はどの国のどの作風とも少し異なるから、あんまり自分の中で比較したことはないかな。強いて言うと、切り絵はよくシンメトリーな手法とか、カッティング時に絵が描かれた白紙を下に敷いた色紙ごとなぞって切る手法が多いけど、僕の場合は線が細くて二重に切れないこともあるから、上の白紙しか使わないね。色は切り終わった段階で、スプレーを使って色を足しているんだよ。基本は背景の白とメリハリをつけるためにも、黒スプレーを使っているね。シンメトリーも特に意識していないかな。だからどんな細さも絵柄もトライすることができるんだ。

せん太:しかし、これだけ集中力が必要そうな作品制作と毎日向き合うのは、疲れたりしないんスか?時には作業を放り投げたくなりそうなもんスけど。

長屋明:今のところ、そういった気持ちになったことはないね。大掛かりな作品を手掛ける合間で、もう少しライトな作品を手がけたり、ポストイットで切り絵して遊んだり、気分転換も充実させているよ。大体、個展などで飾るような作品は、年に10作品ほどしか作れないんだ。細かい表現の作品だと1年かけて切り続けることもあるんだよ。そればっかりやっていたら、もしかすると煮詰まっちゃうのかもしれないね。

せん太:切り絵は失敗したらもう取り返しつかないッスよね?これだけ細いと、工程を間違って切っちゃ駄目なところまで切ったりしないんスか?

長屋明:昔は何度も失敗を繰り返していたけど、長年の経験が積み重なって、今は特に無いかな。感覚で分かるから、事前に工程確認もしてはいないよ。でも作っているうちにこれはもっと大きい紙で表現したいなぁとか感じることはあって、作り直すことは何度もあるね。あとは天候や気温、湿度で紙の質が変わってくるから、そこはいつも気を配っているよ。ちなみに僕が使う紙はいわゆるコピー用紙とユポ紙、あとA3以上だと在庫の事情からケント紙を使っていて、カッターもデザインカッターではなく、普通のカッターなんだよね。デザインカッターは刃先が回転するのにどうしても慣れなくて(笑)。

せん太:本当に誰でも集められる素材と道具で、これほど引き出しの多い創作活動ができるなんて、長屋さんの可能性は無限大ッスよ!

長屋明:せん太くん、そんなに興奮気味に褒めてくれると何か恥ずかしいな。今、僕としては一人でも多くの人に切り絵の素晴らしさを体感してもらいたいと思っているんだ。だからティアラのように被ったり、風鈴のように音色を聞いたり、体感できる作品にも力を入れているね。周りの協力してくださる皆さんの方がアートに関する造詣が深かったり、客観的な評価をしてくださるからこそ、色んな人のアドバイスを聞く姿勢をこれからも大切にしていきたいな。そして、応援してくれる皆さんが自慢できるような面白いアーティストで居続けたいね。

せん太:長屋さん、お話ありがとうございやした!これからおいらも応援し続けやす。その代わり、今度おいらの切り絵も作って下さい!

長屋明:せん太くんは作りがざっくりしていて切り応えないから、それはお断りします(笑)。

せん太:くぅ~!

長屋明さんの切り絵アートを動画で紹介!

長屋明 Profile

切り絵アーティスト
1988年 寿司職人の「笹バラン」細工に魅せられ、独学で切り絵を始める。
その後、地元、栃木県日光を中心に創作活動を行う。2007年に「第20回上野の森美術館日本の自然を描く展」にて入選を果たすと、その後数々のコンクールにて賞を受賞。2012年にはアメリカのニューヨーク州にて「長屋明 切り絵の世界展」を開催。
長屋明オフィシャルサイトhttp://www.akira-nagaya.com/

せん太 Profile

田舎から出てきたものの、やりたいことが見つからず、日々自分探しをしているピーターパン男子。今回の連載を通しさまざまなアーティストに会うことで、自分が極めるべき道を見つけたいと思っている。