発掘!アーティスト

未開拓のシーンを切り開くエクストリームなアーティストをご紹介。
案内役は、連載オリジナルキャラクターのせん太くん。

2014.06.19

これが「絵画」!?
本物さながらの金魚アート

プロフィール

日本各地に存在するさまざまなエクストリーム・アーティストをせん太くんが訪ね歩き、アートの極意を聞き出していく連載シリーズ「発掘!アーティスト」。第9回は、金魚をモチーフにしたアートを発表している美術作家の深堀隆介さんです。器のなかを泳ぐ金魚をオブジェ化したような深堀さんの作品。本物さながらの立体感を持つその金魚は、なんと平面に描かれた「絵」なんだとか。作品に仕掛けられたマジックに、せん太くんが迫ります!

「平面」と「絵画」へのこだわり。

せん太:いや~今日も暑いッスなあ!この辺に、夏らしい風流な作品を手掛けるアーティストがいると聞いてやって来たんスが……。

深堀隆介:せん太くん、こんにちは。ここが僕の工房だよ。コーラでも飲んで、ゆっくりしていってね。

せん太:おっと深堀さん!今日はよろしくです。周囲ものどかだし、素敵なアトリエですなあ。

深堀隆介:のんびりしたところだから、ここで飼っている金魚をぼんやり眺めていると、あっという間に時間が経ってしまうんだよね(笑)。でもそうやって金魚を眺めている間に頭のなかに蓄積したものを作品にしているんだ。

せん太:うわあ、こうやって実物を間近で見ても、金魚そのものの佇まいッス。かわいいなあ。この作品はどうやって作っているんスか?

深堀隆介:この金魚は絵なんだよ。器に樹脂を流し込んで、固まった表面に絵を描く、さらに樹脂を流し込んで、また絵を描き加える。そうやって何層もの絵を重ねたものなんだ。

せん太:絵なんスか!?立体のオブジェにしか見えない……。

深堀隆介:平面にこだわっているし、絵画にこだわっているんだよね。「これは平面絵画なのか?」っていう問いかけでもある。マニュアルもないところから、まったくの我流で編み出した技法なんだ。ここにたどり着くまでは何回も失敗したし、本当にいろいろ試行錯誤したよ。

せん太:どうやってこのアートを生み出したのか、教えて欲しいッス!

深堀隆介:美術大学の学生の頃から、魚をモチーフにした作品は作っていたんだよね。水面を境界線にして、その向こう側に、こちらとは別の世界が広がっているということに昔から惹かれていて。釣りにしても、水のなかから何か得体の知れないものが糸を引いているという感覚がとても好きだったんだ。

せん太:ずっと魚のアートを作っているんスか?

深堀隆介:いや、作品制作で食べていく術もわからなかったし、大学を出てからは一度就職したんだ。でも、画廊を巡るようになったり、アーティストの講演を聞いたりしているうちに「この世界にいたかったんじゃなかったのか?」という思いが頭をもたげてきてね。それで26歳の時に会社を辞めたんだ。ものづくりの分野で何か貢献したいな、とは漠然と思っていた中で、そのとき「自分は現代美術の作家になろう」と決心したんだ。現代美術が大好きで、現代美術のことばかり考えていたからね。この時、アーティストとしてのスタート地点に立ったんだと思うな。

せん太:美術作家・深堀隆介の誕生ッス!

深堀隆介:でも、最初から上手くいったわけではなくて……。27歳の時に、アーティストを辞めようかとすごく悩んだ時期があったんだけど、そんな時に出会ったのが金魚だった。金魚すくいの出店のおじさんに、お祭りで売れ残った金魚をたくさんもらったことがあって、そのなかで最後に生き残った一匹が目に入ってね。「あ、金魚だって自分がずっと惹かれていた魚じゃないか。これを描けばいいんだ」ってピンときたんだよね。

せん太:身近なところにモチーフがあったんスね。

深堀隆介:僕の育った町のすぐ近くに、愛知県弥富市という金魚の一大生産地があることにも思い当ったんだ。子供の頃から金魚と触れ合っていたんだなと。近すぎて気づかなかったんだね。

自分のなかの金魚を描く。

せん太:樹脂を使った作品だけじゃなくて、キャンバスに金魚を描いた絵画もあるんスね。

深堀隆介:現代美術の領域で新しいことがやりたかったので、以前はキャンバスに絵を描くというごく一般的なスタイルに抵抗があったんだよね。それで当初は段ボールとか壁とか、キャンバスじゃないものに金魚を描いていて。妊婦さんのお腹に金魚を描いて看護士さんに驚かれたり(笑)。キャンバスの作品を納得のいく形で描けるようになったのはごく最近のことなんだ。

せん太:金魚のどういうところに魅力を感じたんスか?

深堀隆介:僕は海外のアートに憧れ過ぎていて、自分の作品は結局、そういったものの物真似なんじゃないかっていう思いが拭いきれないところがあったんだ。でも、金魚は本当に身近にいたものだし、これなら自分らしい表現を追及できるんじゃないかと考えたんだよね。

それから、金魚を通して人間というものを考えることができる。金魚は、人間が意図的に品種改良を重ねて生み出したもので、もはや雑菌だらけの自然の水のなかでは生きていけない。で、人間も自分を品種改良しているようなものじゃないかと。文明が発達するにつれて自然とは切り離された存在になっているというか、生水も飲めなくなったりして、自然そのものの環境では過ごせなくなっているでしょう。だから、金魚って人間そのものだなって。

せん太:うーん、金魚、深いっス……。

深堀隆介:どんな芸術も学問も、それを通して人間とはなんぞやということを考えるものだと思うんだ。僕は金魚を通して人間を表現する。だから、金魚マニアではないんだよね。品種とかを細かく追及したくないし、ごく普通に飼っているだけだし、そもそも現実の金魚を精密に描写することには興味がないんだ。

せん太:なるほどなあ。そうは言っても、いまにも泳ぎ出しそうなリアルさがあると思いやす。

深堀隆介:僕は仏像も大好きなんだけど、仏師は木のなかに仏を見出して、それを形にしている。その結果、いまにも動き出しそうなリアリティーを生み出しているんだ。その感覚が欲しいし、僕も自分のなかにいる金魚を描きたい。

せん太:作品のこだわりポイントはあるんスか?

深堀隆介:金魚の影を見せたいんだよね。抽象画家が絵画のイリュージョンを否定した時代があって…… つまり、風景画で空間の奥行きを表現したとしても、それはまやかしであって、実際に存在しているのはキャンバスと絵の具だけだと。このキャンバスと絵の具で構成されるという絵画の構造は何千年もずっと続いてきた。僕の作品は樹脂というキャンバスに絵の具を乗せているわけだけど、その上からさらに樹脂を流し込むことでキャンバスが消失する。あるいはキャンバスが立体物になって、そのなかに絵の具が浮いた状態になる。器に落ちる影は、絵の具そのものの影なんだ。それを見せることは、絵画史のうえでも誰もやったことがないんじゃないかと……。

せん太:なるほど~。深堀さん、やっぱ奥が深いっスね。

深堀隆介:わかってくれてありがとう。実はこの話、取材でもいつもカットされちゃうんだよなあ……。コンセプトを考えるのが好きで、こういう話はいくらでもできるんだけど(笑)。

せん太:深堀さんがこれまでにないアートを作っていることはわかったッス。

深堀隆介:とにかく、誰もやってないことをやりたかったんだよね。自分はどこかに属しているわけでもなく、美術のシーンとは離れたところで、たったひとりで制作していたから、そういう状況で認めてもらうには、なおさら独創的なスタイルを作るしかないとも思ったし。

せん太:でも、難しいことはわからないオイラでも、この金魚アートはめちゃめちゃ楽しめるのがいいッスね!

深堀隆介:そもそも、最初に僕の作品に食いついてくれたのは子供たちだったんだよ。銀座のショーウィンドウに金魚の作品を展示したら、みんなすごく喜んでくれた。この作品が現代美術のフィールドを超えて受け入れてもらえたのは本当に嬉しかったし、救われたなあ。

せん太:これからも金魚にこだわったアートを作っていくんスか?

深堀隆介:さっきも話したけど、金魚を通して自分を表現できる。だからこそ、これは一生取り組めるモチーフだなって思っているんだ。「カエルも描いてみたら」とかって言われることもあるけど(笑)、飽きたから次っていう発想はないよ。ひたすら金魚を追求したいな。

せん太:深堀さん、かっけーッス!!

深堀隆介さんの金魚アートを動画で紹介!

深堀隆介 Profile

美術作家
73年愛知県生まれ。神奈川県在住。
2002年、器のなかに樹脂を流し込み、その上に直接金魚を描くというオリジナルの技法を編み出し、作品を発表。その後、金魚を通してジャンルにとらわれない多彩な表現を試みている。
深堀隆介オフィシャルサイト「金魚養画場」http://goldfishing.info/

せん太 Profile

田舎から出てきたものの、やりたいことが見つからず、日々自分探しをしているピーターパン男子。今回の連載を通しさまざまなアーティストに会うことで、自分が極めるべき道を見つけたいと思っている。