発掘!アーティスト

未開拓のシーンを切り開くエクストリームなアーティストをご紹介。
案内役は、連載オリジナルキャラクターのせん太くん。

2014.09.18

石がニッコリ笑う!?
インパクト大のストーンアート

プロフィール

日本各地に存在するさまざまなエクストリーム・アーティストをせん太くんが訪ね歩き、アートの極意を聞き出していく連載シリーズ「発掘!アーティスト」。第12回は工芸作家の伊藤博敏さんです。伊藤さんが手掛けるのは、石を素材にしたアート作品。歯を見せて不気味に笑う石や、コインが詰め込まれた石……シュールかつ強烈なインパクトを放つ作品の数々をレポートすべく、せん太くんは一路、長野県松本市へ。海外でも人気を博す伊藤さんの摩訶不思議な世界をご堪能ください。

石のイメージを崩したい

せん太:今日は松本市にやって来たッス!景観がきれいで、アートを生む街って感じがしやすねえ。伊藤さんはここで石材店を営んでるんス。

伊藤博敏:ようこそ、せん太くん。うちのお店の2階を、自分の作品のギャラリーにしてるんだ。ゆっくり見て行ってね。

せん太:うおお、石が歯を見せて笑ってる……生で見ると怖いッス!

伊藤博敏:みんなそう言うんだよね。海外の方も「ウィアード(不気味)」とか「スケアリー(恐ろしい)」とか……「でもクールだね」ってフォローしてくれるけど(笑)。

せん太:伊藤さんの家は代々、石材店をされてるんスよね。仕事もアートも石一筋ッスか?

伊藤博敏:いまはそうだね。ただ、大学では工芸科に入ったんだけど、将来的には家を継ぐことになるし、学校でも石を扱うのはおもしろくないから金属を勉強したんだ。工芸科はプロダクトデザイン的なことをやる人もいれば、現代彫刻をやる人もいる。いろいろなものを見て、金属を学びながら、現代工芸的な発想をベースに、石を素材とした作品を作れないかなと思った。発想の部分ではいまも金属工芸や現代工芸の影響を受けているよ。

せん太:なるほど~。学校を出てからは?

伊藤博敏:すぐ家に戻って来て店で働き始めて、いまに至る感じだね。仕事で道祖神を作ったり、お寺のダルマを掘ったりしながら、自分のオリジナルの表現方法を模索していたね。

せん太:こういった石の作品はどういう風にして生まれたんスか?

伊藤博敏:最初は包丁で石を切る作品を作ったんだけど、石に対する一般の方のイメージを変えたかったんだ。そこでそういう作品が思いついたんだよね。

せん太:石というと、硬くて壊れないイメージがありやすね。

伊藤博敏:それから、冷たくて重たいイメージもあるでしょう。あるいは威厳を感じたり。そこを崩して、石はもっと身近で扱いやすいものですよってことを言いたかった。柔らかそうに見えるけど石だよな……って、ある種のパラドクスとかシュールレアリスム的に見せられればいいなと。

せん太:単純に「すげーッス!」って見てたけど、そう言われてみると、石の固定観念を覆すってところがどの作品にも共通していやす。セーターとか紙袋の作品もおもしろいなあ。

伊藤博敏:イメージを崩すことは、どの作品でも狙っているところかな。ただ、彫刻で柔らかさを表現することは、古代から連綿と続けられてきた手法なんだよね。神様の彫像で、着ている服を表現したり。それを現代的にやるにはどうしたらいいかってことを考えて、セーターやお財布なんかをテーマに選んでるんだ。

せん太:いろんな作品がありやすけど、石にファスナーを付けるというモチーフのものがたくさんあるッス。これはどういうところから生まれたんスか?

伊藤博敏:具象と抽象を組み合わせたイラスト作品でファスナーを描いていたんだけど、そのイラストを石に置き換えて立体にしてみたら、石が柔らかく見えた。それがきっかけだね。ファスナーも石ころも日常のものだけど、そのふたつを組み合わせると非日常になるのがおもしろい。絵画の世界では、マグリットやダリといった作家が非日常を表現していたけど、立体作品ではあまり見かけない。だからこそ、石を素材にしたオブジェで非日常を追及しているというのもあるかな。

ネットを通じて海外へ波及

せん太:伊藤さんは仕事と作品作りが結びついてるのがいいッスねえ。

伊藤博敏:まあ工芸作家さんの場合、そういう方は結構多いんじゃないかな。普段は器を焼いているけど、一方でオブジェを作っているなんていう風にね。石屋をやりつつ、物作りもしようとは昔から考えていたし、自分のなかでは自然にやっていることだね。

せん太:普段、どのように制作されているんスか?

伊藤博敏:展覧会が決まったら、それに向けて作品を作っていく感じかな。やっぱり仕事の方で結構時間を取られてしまうから、なかなかコンスタントには制作できないんだよね。作品の形を作るのはそんなに時間はかからなくて、石ころを使ったものなら2~3日、彫刻的なものでも1週間くらいかな。ただ、そこから見直しては手を加えるという過程が大変で、完成させるまでには1か月くらいかかる。

せん太:実作業よりも、アートとして仕上げていくところに時間がかかるということスかね。

伊藤博敏:ただ僕の場合は、決してリアルを追及しているわけではないんだよね。石なんだけど石に見えないというニュアンスを大事にしているから、あまりに微細に手を加えて石らしくなくなっちゃうと意味がない。だから、ある程度ざっくりしたところに留めている。細かく手を入れていく作業って楽しいから、そっちにばかりハマらないようセーブしてやっているんだ。特に石ころを使った作品は、いかにいじらないで成立させるかをテーマにしているね。

せん太:伊藤さんは海外でも展覧会をやっていやすけど、どういうきっかけで始まったんスか?

伊藤博敏:僕のサイトを見たボストンのギャラリーの方がお話をくださったのがきっかけだね。そのギャラリーを通じてニューヨークやシカゴのアートフェアにも作品を出品したんだ。

せん太:インターネットを通じてなんスね。

伊藤博敏:ここ5~6年で海外からの反応はすごく増えたね。「IICHI」というウェブサイトで作品を売り始めたのも大きくて、このサイトに出品するようになってから、海外からのアクセスがすごく増えたし、いろんな国で作品が紹介されるようになった。中国のファッション雑誌が取り上げてくれたりして、取材も増えたね。メールインタビューと作品画像を送ったら雑誌が届く感じ。ファッション雑誌に、日本の田舎で石屋をやってるオヤジが出てるのっておもしろいよね(笑)。

せん太:ネット時代ならではッス!

伊藤博敏:ウクライナのロックバンドから「石に目を付けた作品をジャケットに使わせてくれ」って連絡が突然来るということもあったよ。こういった作品はロックのイメージと結びつくみたいで、海外からFacebookで友達リクエストをしてくる人も、ロック系の人が多いんだよね。体中にガイコツの入れ墨が入っていたり(笑)。自分はヒーリングミュージックしか聴かないんだけどなあと思いつつ……(笑)。まあ、作品を通して自分の違った性格を見せているところはあるかもしれないね。

せん太:これから作ってみたいものはありやすか?

伊藤博敏:プロダクトデザインの分野で、例えば金工の作家さんとコラボして、異なる素材を組み合わせた作品を作って、みたいな。それから、今までの洋服や食べ物をテーマにした作品で、衣食住の「衣」と「食」は表現できたから、次は「住」。建物のなかで石をおもしろく利用出来たらなって思ってる。ヨーロッパだと壁からして石だったりするけど、日本の生活空間のなかでは石ってほとんど使われないでしょ。お蕎麦屋さんの臼くらい(笑)。

せん太:言われてみると確かにそうッスねえ。

伊藤博敏:日本の家屋は、部屋のなかのものは片付けられるってことが前提になっている。そういう暮らしの文化のなかで、石をどう活かしていくかを考えていきたいんだ。

せん太:あ!いいアイデアを思いついたッス。漬け物石が歯を出して笑ってる作品を作ったらいいッス!

伊藤博敏:……。

伊藤博敏さんのストーンアートを動画で紹介!

伊藤博敏 Profile

1958年長野県松本市生まれ。東京藝術大學美術学部工藝科卒業。石材店を営みながら、石を使用した作品を制作。国内外で個展を行い、作品を発表している。
伊藤博敏ギャラリー 自遊石http://www.jiyuseki.com

せん太 Profile

田舎から出てきたものの、やりたいことが見つからず、日々自分探しをしているピーターパン男子。今回の連載を通しさまざまなアーティストに会うことで、自分が極めるべき道を見つけたいと思っている。