発掘!アーティスト

未開拓のシーンを切り開くエクストリームなアーティストをご紹介。
案内役は、連載オリジナルキャラクターのせん太くん。

2014.11.20

こんな生き物がどこかにいるかも?
幻想的な標本アート

プロフィール

日本各地に存在するさまざまなエクストリーム・アーティストをせん太くんが訪ね歩き、アートの極意を聞き出していく連載シリーズ「発掘!アーティスト」。第14回は幻想標本作家の江本創さん。江本さんは架空の生き物を考案し、その標本を、現実の生き物のそれと見紛うほどのリアルなタッチで制作しています。恐ろしいけど少しお茶目なその作品世界を、せん太くんがおっかなびっくりレポートします!

怪獣ブームや江戸川乱歩に影響を受けて

せん太:いきなり【グロ注意】って感じの写真を載せていやすが……この不気味な標本作品を作っている江本さんのアトリエにやって来たッス。これって作り物なんスよね?実在しないッスよね?

江本創:もちろん。みんな僕が考え出した架空の生き物だよ。

せん太:怪奇小説とか幻想小説みたいな怖さがありやすね。

江本創:ちびっこの頃に『ウルトラマン』の怪獣ブームをモロに受けて、ずっと怪獣チックなものが好きなんだよね。それから江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズの影響も大きい。昔のポプラ社版の、おどろおどろしい挿絵が好きでね。そういう自分の根っこにあるもの、体に染み付いちゃっているものを作品にしているのかもしれない。

せん太:どういうきっかけでこういった作品をつくるようになったんスか?

江本創:もともとは大学の美術学科で版画をやっていたんだ。先輩たちと農家の倉庫を借りて、そこをアトリエにしてね。学校を出てからもそこで作品を作っていたんだけど、版画ってすごい手間がかかるんだよ。版を作って、刷って、別の色の版を作って……そういう工程が、だんだんまわりくどく感じるようになって、イメージをもっと早く形にしたいと思うようになった。それで、版画は止めようと。

せん太:そして標本の作品を?

江本創:いや、次は何を思ったか、プラモデルを作り始めた(笑)。とにかく作る過程が楽しくて、それが新鮮でね。

せん太:でもそれ、遊んでるだけじゃないスか?

江本創:周りの美術仲間も「あいつ終わったな」と思ってたらしいんだけど(笑)。そんな時にふと、高校の美術準備室に、トカゲを干したものがあったのを思い出した。先生が香港あたりでお土産として買ってきたものだと思う。向こうはスープのダシを取るための食材とか漢方薬として、そういうものを売ってるんだよね。それが妙に印象に残っていて、ああいうものが作れないかなと思ってなんとなく手元にあった材料で試してみたら……作れちゃったんだよね。小さなドラゴンの標本。

せん太:これが最初の作品なんスね。

江本創:で、プラモ同様に作るのがすごく楽しかったんで、これでしばらく遊んでみようかと思ったの。で、作ってるとやっぱり人に見せたくなる。それで、当時通ってたバーに標本を持って行ってみたんだ。学校の後輩たちと飲んで、みんなだいぶ出来上がって来たなって頃合いを見計らって「実はこないだ、山でこんな生き物の死体をみつけたんだけど」って見せたんだ。みんな酔ってることもあって「こんな生き物いませんよ!」「生物学部の研究室で調べてもらった方がいいんじゃないですか?」みたいな反応でね。それがおもしろくて(笑)。

せん太:いたずらじゃないスか!

江本創:「僕も見たことあります」なんて言い出す嘘つきもいてね(笑)。とにかくウケがいいので「こりゃいいや」と、どんどん作っては持って行った。そうやって周りを引っ掛けておもしろがってたことが、架空の標本を作るいまの活動に直結してる感じだね。成り行き任せとも言えるけど。

現実にもいるかもしれないリアルさ

せん太:最初の作品から、見る人に本物だと信じこませちゃったのがすごいッスね。それだけのリアルさがありやす。

江本創:例えば、ゲームに出てくるようなドラゴンって、手足とは別に翼もあるでしょう。それって手足にあたるものが3対ってことで、実際にはあり得ない。脊椎動物の手足は2対で、退化してなくなることはあっても、増えることは基本的にないからね。そういう造形のリアリティはすごく考えているし、生物学のルールを守るようにしている。守るというか、ここまでだったらあり得るかなって考え方だね。

せん太:リアルさを追求する上でのポイントはありやすか?

江本創:やっぱり骨格が大事で、そこが狂ってるとリアリティが出ない。図鑑なんかを参考にして骨格を作ってたんだけど、立体の方がわかりやすいんで、人体の骨の模型を思い余って買っちゃった(笑)。

せん太:羽の生えた人間みたいな、あり得ない造形の作品もありやすね。

江本創:そういう荒唐無稽なものもちょっとだけ混ぜておく。リアルなもののなかに、あり得ないものをちょっと入れておくと、現実的に見えてきちゃうんだよね。詐欺師の発想みたいだけど(笑)。

せん太:具体的には、どういう風に作ってるんでしょう。

江本創:材料は基本的に紙なんだよ。まず骨格を作って、その上に皮膚にあたるものを貼り付けていく。ものにもよるけど、そうやって原型を作るところまでなら、だいたい3日半くらいでできるかな。そこから魚類や爬虫類だったらウロコを貼っていくんだけど、この作業が大変でね。ウロコ貼りだけで4日くらいかかってしまう。延々と作業をしていると「なんのために生きてるんだ?」って思えてくるよ(笑)。

せん太:グロテスクさを追求してるところはありやすか?

江本創:いや、むしろグロテスクにならないようにしてる。本当にグロテスクなものが好きな人だったらもっと気持ち悪い造形にすると思うけど、僕の場合はどこかお間抜けでお茶目さがあるものにしているつもりなんだよね。

せん太:確かに、ちょっと笑える感じはあるッスね。

江本創:展示を見て「かわいい~」って言う女の子もいるからね(笑)。

せん太:かわいくはないと思いやすが……でも女の子でも楽しめる作品ってことッスね。子供も喜びそうッス。

江本創:最近は、子供も対象にした夏休みの美術館の展示に呼ばれることが多いね。作品にかぶりついて離れない子と泣き叫ぶ子に二分される(笑)。

せん太:江本さんがウルトラマンの怪獣に受けたような衝撃を、今度は江本さんがいまの子供たちに与えてるんじゃないスか?非現実への入り口というか、入ったら帰って来れなくなるような怖さがあるッス。

江本創:ただ、僕が作ったような生き物が発見される可能性だってあると思うんだ。実際、架空の魚類のシリーズを作った時に、「こういう深海魚、いますよ」って言われたことがあったよ。自分の想像力と、生き物の進化の力のせめぎ合いみたいなところがあって、そこもおもしろい。だからまったくの非現実とも思ってなくて、「現実にいるかもよ」っていうことだよね。

せん太:なるほどなあ。これから作ってみたいものはどんな生き物スか?

江本創:ずっとリアルなものを中心に作って来たので、来年の個展は、逆に荒唐無稽な生き物ばっかりにしようかと思ってるよ。それから、子供の頃から好きだった日本の妖怪シリーズもいつかやりたい。ただ、妖怪だと作れるものが限られてきちゃうんだよね。一反木綿のミイラなんて、おかしいでしょ(笑)。

江本創さんの標本アートを動画で紹介!

江本創 Profile

幻想標本作家。
1970年兵庫県生まれ。1995年筑波大学大学院修士課程芸術研究課修了。99年まで版画(主に銅版画、リトグラフ)を制作。その後、標本作品の制作を始める。
幻想標本博物館 江本創の世界http://sow.ggnet.co.jp/index.htm

せん太 Profile

田舎から出てきたものの、やりたいことが見つからず、日々自分探しをしているピーターパン男子。今回の連載を通しさまざまなアーティストに会うことで、自分が極めるべき道を見つけたいと思っている。