発掘!アーティスト

未開拓のシーンを切り開くエクストリームなアーティストをご紹介。
案内役は、連載オリジナルキャラクターのせん太くん。

2015.03.12

これが畳まれるとは!
繊細かつ大胆なポップアップアート

プロフィール

日本各地に存在するさまざまなエクストリーム・アーティストをせん太くんが訪ね歩き、アートの極意を聞き出していく連載シリーズ「発掘!アーティスト」。第18回はポップアップアーティストのHIROKOさんをご紹介します。HIROKOさんの作品は、ポップアップの常識を覆すほどに緻密で、かつダイナミックな奥行きを備えたものばかり。作品を見ただけでは、これがポップアップ=閉じたり開いたりするとは信じられないかもしれません。魔法のような作品の数々はどのように作られているのか?せん太くんが調査してきました。

脱OLしてポップアップの道に

せん太:今日はHIROKOさんのポップアップ作品を調査に来たんスが……どれも、ものすごく繊細でかわいい!ガサツなオイラもキュンキュンするッス。しかしこれ、ほんとにポップアップなんスか?閉じるように見えないッス。

HIROKO:せん太くんこんにちは。個展でも、作品を見ながら「畳めるわけないじゃん」っておっしゃっている方がいらして(笑)。その場でこうやって畳んだら「ええ!?」って。

せん太:うおお!いとも簡単に畳まれた……信じられないッス。HIROKOさん、この道の大ベテランとお見受けしやした!

HIROKO:最初に作ったのは小学校の3~4年生くらいの頃かなあ。

せん太:やっぱり!

HIROKO:その頃から工作が好きだったんだけど、普通の工作だとかさばるので捨てられちゃったりして、それが悲しいわけですよ。そんな時に小さなポップアップのカードをもらって、これは折り畳んで収納できていいじゃないかと。

せん太:目を付けたのはそんな理由だったんすか?

HIROKO:そう(笑)。その5センチ四方くらいのカードを「どういう風にできてるんだろう?」って定規を片手に仕組みを調べて、見よう見まねで同じものを作ってみたんです。それがきっかけでポップアップにのめり込んで。中学時代はもう完全にポップアップ作りだけという感じでしたね。

せん太:すごいハマりっぷりスねえ。その頃はどんな作品を作ってたんスか?

HIROKO:当時は単純な仕組みのものです。具体的に言うと、紙を90度に開くとポコッと絵柄付きの面が立ち上がるというもの。ただ、中学の時に、今は亡き茶谷(正洋)先生が考案された「折り紙建築」に出会ったのが大きかった。「折り紙建築」は、紙に山折り・谷折りと切れ目を入れて折ると、立体が浮かび上がってくる技法です。それに強い衝撃を受けて、こういう複雑なものを作りたいなと思いました。

せん太:技術的に一段上のものを目指すようになったんスね。

HIROKO:そうですね。「折り紙建築」の影響を受けながら、高校の頃にはいま作っているような180度開く作品を作りたいなと思うようになったんですけど、どうやって作ったらいいのか全然わからなかった。そのうち大学受験とかで忙しくなって、ポップアップから離れちゃったんです。

せん太:ポップアップ道一直線というわけじゃなかったんスね。

HIROKO:大学では建築学科に入って、大学院に進み、その後は経済産業省に入省したんですけど、尋常じゃない忙しさで……。そんな時にふとポップアップを思い出して、久々にやってみることにしたんです。簡単なものから始めてみたら、意外と上手くいって。

せん太:結構なブランクを経て復帰したと。

HIROKO:もともとアートの分野に進みたいという夢を持っていたんですけど、その気持ちは学生の頃からずっと押し殺して公務員として働いていました。でも、夢を果たすことなく、このまま歳を取っていくことに疑問を持ち始めたんです。そんな時に『樹/根』という作品を作りました。しっかりとした強い思いが根っこにあれば、その上には枝葉を伸ばした豊かな樹冠が成長して実を結ぶのではないか……という自分に対するメッセージを込めた作品だったんです。その作品が「紙わざ大賞」という公募展で準大賞をいただいて。それがきっかけで、本気でポップアップに取り組んでみようかと思ったんです。

せん太:それまでは出展とかしてなかったんスか?

HIROKO:一切してなかったんです。初めて出したのが「紙わざ大賞」で、それがきっかけでいろんなところから声をかけていただけるようにもなったし、本(『ハンドメイドポップアップの本―世界でひとつ、飛びだすカードの作りかた』)の出版のお話もいただいたんです。この本が私のデビュー作になりましたね。2007年の8月末日をもって退省し脱OLして、ポップアップのアーティストとして活動を始めました。

360度、どこから見てもよい立体作品

せん太:HIROKOさんの作品は精巧な建築物って印象もありやす。大学で建築を学んだことは関係してるんスか?

HIROKO:基本的にはあまり関係ないですね。現実の建築物は折り畳まなくていいから(笑)。なにより折り畳む仕組みを理解するのが重要なんですよ。そういう意味で役立ったのは、基本的な数学の知識ですね。中学や高校、大学で学び、公務員試験で復習した数学が、立体の図形や空間を把握するうえですごく活躍しています。

せん太:ポップアップは数学的な発想が大切なんスね。オイラには無理そうッス……。

HIROKO:でも、一般的なポップアップを作るのに、必ずしも計算が必要なわけではないと思いますよ。ラフなイメージを描いて、試作品を何パターンか作ってみて、試行錯誤しながら完成形に近づけていくという作り方がほとんどだと思います。ただ、私は試作をせずに一発勝負なんです。

せん太:すごいなあ。それはHIROKOさんの美学スか?

HIROKO:私はまず図面を引くんですけど、その時点でおかしいところに気付くんですよ。言わないと誰にも気づかれないような細かな仕掛けを組み込んでいるので、1か所のちょっとした狂いが全体に影響してしまう。大まかに実物を作ってみて試行錯誤……みたいな作り方じゃ成立しないんです。思い描いた飛び出し方を実現させるために、とにかく計算しまくる。最近では小数点以下第5位とかまで数値を求めたりもします(笑)。

せん太:すげーッス……。

HIROKO:だから図面との戦いがほとんどですね。

せん太:それって他人と共有できなさそうッスねえ。HIROKOさんの頭のなかにだけ完成形があるというか。

HIROKO:本当にそうですね。自分には才能らしい才能があるとは思っていなくて、とにかく努力しかない。ローラーコースターの作品は完成させるのに1年かかったんですけど、その内、設計に11か月費やしている(笑)。

せん太:実際の製作は1か月!

HIROKO:そこまでやらないと、いちアーティストとして認められるレベルに近づけないんじゃないかなって。私が影響を受けた「折り紙建築」の良さって、日本らしい繊細さがあるところなんです。きちっと計算されている精密さ。その魅力を活かしつつ、海外のポップアップ作品の大胆さも取り入れた、繊細かつ大胆なものを作りたかった。だから設計ありきの作品になったんです。そこが私のオリジナリティーだと思います。

せん太:具体的に、どういう工程で作られてるんスか?

HIROKO:まずモチーフを決めて、どういう風にポップアップさせるかを考えます。それが決まったら現物を調べて、その構造を頭に叩き込む。リアリティも大事にしているので、極力、本物と同じ構造を取るようにしているんです。で、ノートの上で基本的な動きと構造を計算して、そこからはPCで構築していきます。問題が出てきたらまたノートで計算をやり直す。

せん太:やっぱり大きい作品ほど時間がかかるんスかね?

HIROKO:そういうわけではないですね。制作期間にいちばん影響するのは、どういう構造にするか。大きくてもポップアップの基本に即したものならそれほど大変ではないんです。ティーカップの作品はこじんまりしてるけど、構造が複雑なんです。あれは完成するまでに1年以上かかりました。

せん太:ティーカップの作品はとりわけ閉じたり開いたりするように見えないッス。やっぱり複雑だからこそ、なんすかねえ。

HIROKO:一般的なポップアップカードや絵本って、開くのは一面だけで、裏から見ると構造が丸見えだったりしますよね。でも私のポップアップは360度、どこから見ても良い立体作品を目指しているし、ポップアップの構造が外から見えずに分からないようにしているんです。

せん太:そっかあ、だからポップアップに見えないってのもありやすねえ。

HIROKO:だから内側はものすごく入り組んでいて、すごいことになってるんですけどね。

せん太:基本的に着色をせず、素材の白い紙を活かした作品なのもHIROKOさんの特徴だと思いやす。

HIROKO:仕事で着色のものを手掛けたことはありますけど、自分の作品では白にこだわってますね。それは、光と影の美しさを見ていただきたいと思っているのがひとつ。それから、着色しないと、全部が見えてしまうからごまかしがきかない。そういうところで勝負したいというのもあります。そして、色がついていないことで、見る人が自由にイメージを広げられると思うんですよ。光の当たり方や時間帯、見る人のその時の感情によって作品の表情が変わってきますし。それがいちばんの理由ですね。

せん太:これから作ってみたいものはありやすか?

HIROKO:いま、1年以上、取り掛かっているものがあるんですけど、それはまだ秘密(笑)。それから、絵本を作ろうと思っています。私は持病があって、良いパートナーに支えられているからこそ活動ができる。ハンディを背負っていると「自分はお荷物」と思いがちですが、同じような苦しみを抱えている人は多いと思うんです。そういう人たちに「ひとりじゃない」っていうメッセージを伝えたい。そういう物語を絵本にしたいと思っています。

HIROKOさんのポップアップアートを動画で紹介!

HIROKOさんの活動情報

合同展「神の手●ニッポン展」

会期:2015年5月29日(金)~6月28日(日)

会場:目黒雅叙園 東京都指定有形文化財「百段階段」

お問い合わせ:03-5434-3140

https://www.megurogajoen.co.jp/event/kaminotenippon/index.html/

HIROKO Profile

1979年東京生まれ。
90年代にポップアップに衝撃を受け、独学で仕組みを研究、作り始める。2005年「第15回紙わざ大賞」準大賞受賞。2007年9月よりポップアップアーティストとして活動を開始。国内外で作品が紹介されている。

HIROKOオフィシャルサイトhttp://www.geocities.jp/h_pdr/index-jp.html

せん太 Profile

田舎から出てきたものの、やりたいことが見つからず、日々自分探しをしているピーターパン男子。今回の連載を通しさまざまなアーティストに会うことで、自分が極めるべき道を見つけたいと思っている。