WEEKLY MAGAZINE

いま注目のビジネス、スポーツ、アイテム、イベントなどを
紹介する大人のためのライフマガジン。

プロフィール

2014.04.24 パティシエ エス コヤマ 代表 小山進

兵庫県三田市にある洋菓子店「パティシエ エス コヤマ」。世界的に有名なパティシエ、小山進さんがオーナーを務める、関西のみならず、全国からたくさんの人々が訪れる超人気店です。その敷地内に、大人は入店禁止の子どものための洋菓子店「未来製作所」があります。一風変わった仕掛けのサービスが生まれた背景には、小山さんが子どもたちの未来へ抱く強い信念がありました。「未来製作所」を設立した経緯と、その想いを小山さんにうかがいました。

未来製作所は子どもの「伝える力」を育む場所

──まず、「未来製作所」はどういった場所か教えていただけますか?

小山:「パティシエ エス コヤマ」の敷地の一角にあるのですが、小学生以下のお子さましか入ることができません。中では未来製作所でしか手に入らないお菓子を製造しており、160円という低価格で販売しています。お子さまが中にいる間、保護者の方々には入口でお待ちいただいています。ここでは、子ども相手だからといって、子ども向けの商品を用意しているわけではありません。なるべく早い年齢から大人が本気で作っているプロダクトに触れてもらって、僕たちはそれについてお子さまたちと話したいですし、保護者の方にもお子さまと会話してほしい、そう思ってやっています。ですから、商品は僕たちが最も自信があるものを厳選して提供しています。

──自店舗の敷地内に設けた経緯を教えていただけますか?

小山:今の子どもたちは誰かに話を聞いてもらえる環境が大幅に減ったんじゃないかと、そんな危機感をもっているんですよね。普段、僕は講演などで呼んでいただき、さまざまな学校に行くことがあるのですが、子どもたちの伝える力が弱まってきたと感じることが多いです。例えば講演の感想を聞いても、事前に先生と調整した上での模範解答的なコメントをしたり、上手く言葉が出ない子はすぐに飛ばされて、次の子が当てられたりすることがあります。僕としては、それは違うだろう、と思っているんです。子どもが何を感じて伝えようとしているか、辛抱強く聞き、そこから才能を拾い上げるのが大人の務めだと考えています。

でも大人が子どもに正面から向き合っていないから、子どもが素直な気持ちで自分の想いを伝えられなくなってきているんですよね。今はそれを育む環境があまりに少ないので、自分で作ることにしたんです。だから、あえて保護者の方々は未来製作所に入ることができない設定にしているんです。未来製作所へお子さまを送り出して、戻ってきたらぜひ話を聞いてあげていただきたいです。


未来製作所がある「パティシエ エス コヤマ」は全6店舗がオープンしていてどこも大盛況だ


未来製作所の入り口は子どもサイズ。横には「大人進入禁止」の文字が。

──未来製作所を通して、子どもの反応の変化を感じることはありますか?

小山:子どもは本来とても吸収力があるので、こちらが用意している仕掛けにも敏感に反応してくれます。例えば、コロンビア産カカオをペーストにして一緒に食べた時は「カカオって苦い!」や「すっぱい!」といった発見を共有し合い、新しい食に対する興味を持ってくれました。僕たちが洋菓子作りをしている様子も間近で見られるので、気になれば話しかけてくれることもあります。バレンタインの時には告知を一切せずに、この場所でしか買えない新商品を置いてみました。初めて来た子にとっては、たまたま入った日に置いてあった商品なわけですが、頻繁に通ってくれる子にとっては、自分が発見したレアな情報になりますよね。それぞれのドキドキがそこにあるんです。他にも、凹んだフォルムのチョコレートケーキのパッケージを見て「どうして凹んでいるんだろう?」、「お菓子の箱はこんな形でもいいんだ!」と色々な興味をぶつけてきてくれます。そこからデザインなどにも興味が生まれてくるんです。一人ひとりに自分なりの発見があり、それを持ち帰って共有していくことで、興味のアンテナをどんどん伸ばしてもらっているように感じます。

一人ひとりが表現者として試されるのが、今の社会

──子どもの伝える力を伸ばすことの大切さは、洋菓子界とどのようにリンクしていると感じていますか?

小山:洋菓子界において、かつては一定の商品だけを作り続けていても食べていける時代がありました。しかし、今は自分の強みを最大限に活かせる人間でなければ、生き残っていくことは難しい状況です。それには、自分とはどういった人間なのか、どういうことを考えているのか、はっきり伝えていく力が必要となります。これは洋菓子界に限らず、おそらく全ての業界で共通している課題だと思っています。

僕自身に関して言えば、パティシエである前に「何かを伝えようとし続けている人」だと自分を捉えています。僕は子どもの頃に、周囲の大人に話を聞いてもらって、褒められて、誰かに自分の想いを伝える喜びを学びました。これが僕の原点なんですよ。だから、お菓子でなかったとしても、僕には誰かに何かを伝えたいという情熱が根本にありますし、それがあるから今もパティシエを続けていられるんです。

今、子どもたちから伝える力を奪ってしまったら、僕のような情熱を子どもたちは持ち難くなると思うんですよ。そうして育った子どもたちが、大人になって自分の仕事に誇りを持ったり、自分の強みを活かして生きたりするのは大変ですよね。僕は自分の愛する洋菓子界や日本の未来を考えた時に、一人の大人としてアクションを起こす必要があったんだと思っています。


インタビューに答える小山さん


ニューヨーク・ロンドン・パリで開催される世界的なチョコレートのコンクールで最高評価を獲得している小山さん。
ショコラトリー「Rozilla(ロジラ)」ではその受賞作も購入することができる

──小山さんは子どもたちにどんな成長を期待していますか?

小山:パティシエである僕としては、「面白いことを見つけるセンス+味覚」を更新する力を身につけて欲しいと願っていますね。センスは伝える力を身につけていくことで、周囲の反応を通して磨かれていくものだと思っています。味覚を磨くにも同じく段階があると思っているんです。最初は母親の母乳に始まり、手料理を経て、やがて自分なりの“新しい味”を探していく時がやってきます。さまざまな食材や料理に触れたり、自炊の過程で味覚は育まれていくものです。その時に大事なのが、今まで何を食べてきたかということになると思うんですよ。子どもによっては未来製作所で手にしたお菓子は、初めて自分でお金を出して手に入れたプロダクトになるわけですから、貴重な経験になりますよね。僕はそこで一人でも多くの子どもたちに、より良いものを届けられたらと思っていますし、その過程で僕たちが果たせる役割もあると信じています。

また、未来製作所を通して沢山の興味のアンテナを持ってもらえたら、そこから大好きな事を何でもいいから1つ、極めてもらいたいと考えています。テーマを持って深く掘り下げていけば、必ず人間としての経験値をあげることができ、自分にも誇りを持てると思うんです。何もパティシエや芸術家、音楽家だけが表現者じゃないんです。全ての人間が、何かをしている限り一人の表現者であるはずなんです。「未来製作所」をきっかけに、それを自覚出来る大人になってもらえたら嬉しいです。そして、これは子どもだけが頑張るテーマではありません。むしろ大人の方が意識しなければならないことだと思っています。とにかく、分かった気になって子どもの話を遮ったりしないでもらいたいと思います。子どもが口にした内容がその時、例えまとまっていなくても、才能の原石が沢山眠っていますから。今日からでも、周りの子どもの話に耳を傾けてあげてほしいと願っています。

取材を振り返って

取材時に小山さんは「改善点や考察など報告書に記載したいことが満載になるような姿勢を、仕事に持てるかどうか」が物事を極めるためには大切だと語っていました。また「中途半端な技術の人は何かと現状に折り合いをつけたがるけれど、何か1つでも極めた人間は純粋に人生と向き合えるはずだ」とも教えていただきました。未来製作所は確かに子ども専用の施設ではありますが、小山さんがこの施設を通して発信している情報の奥には、大人自身が最も考えなければいけないことが潜んでいるのかもしれません。

小山進 Profile

パティシエ
1964年京都出身。1983年大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、神戸の「スイス菓子ハイジ」に入社。喫茶のカウンタースタッフからスタートし、後に本店のパティシエに昇格。数々の洋菓子コンクールで優勝し、2000年に独立。2003年より兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」を開店。フランスで最も権威あるチョコレート愛好家協会「C・C・C」(Club des Croqueurs de Chocolat)のコンクールで初出品の2011年から3年連続で最高位を獲得。また、2013年にはニューヨークでのアメリカ大会を経て、ロンドンで開催されたチョコレートコンクール「インターナショナル・チョコレート・アワーズ世界大会」にて初出場にして3部門で金賞(1位)を受賞するなど、ショコラティエとしても世界から注目を集めている。