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プロフィール

2014.10.09 日本エルダリーケアサービス代表取締役社長 森薫

雰囲気たっぷりのバカラテーブルに、色とりどりのチップ。本場ラスベガスさながらの遊具施設を揃え、これまでの介護施設のイメージを大きく覆すコンセプトで話題を集めているのが、「カジノ」がテーマの介護施設「デイサービス・ラスベガス」です。高齢化社会を迎えた今、「デイサービス・ラスベガス」が提案するこれからの介護サービスとは?訪問介護事業、通所介護事業を手掛ける運営会社、日本エルダリーケアサービス代表取締役社長の森薫さんにお話をうかがいました。
※デイサービスとは…昼間に日帰り利用できる通所介護サービス

カジノを通して「うれしい」「くやしい」と思ってほしい

──想像以上に本格的な設備で驚きました。

森:「デイサービス・ラスベガス」では、バカラやブラックジャック、スロットマシンや麻雀などのゲームを楽しんでいただけます。バカラテーブルやスロットマシンをはじめ、設備はすべて実際のホールで使われているものと同じなんですよ。介護用に牌の大きい麻雀などもあるのですが、ここでは麻雀店(雀荘)にあるのと同じ全自動雀卓を使用しています。開設にあたってアメリカに視察に行ったのですが、今アメリカでは子育てを終えたあと、ラスベガス郊外に家を買って週末はカジノを楽しむ高齢者の方がすごく増えているそうです。私も実際に、白髪のご夫婦が「イエース!」とハイタッチして、エキサイトしている場面を何度も見ました。欧米の方は、人生を楽しもうという思いがとても強いです。その姿を見て、日本人ももっと見習うべきではないか、笑顔こそ最高のリハビリテーションになるのではないかと思ったんです。

──なぜ「カジノ」だったのでしょうか?

森:現在、日本には要介護認定者数が約600万人いるといわれています。でもデイサービスを利用している方の8~9割が女性なんです。というのも、レクリエーションでは主に折り紙や貼り絵、書道などが行われているので、行きにくいと考えている男性が多いようです。私は10年以上前からデイサービスの仕事に携わってきましたが、男性に自発的に来てもらえるような楽しいことを提供できないか、ずっと考えていました。そこで、世界的に流行しているカジノを取り入れたデイサービスを思いついたんです。ゲームなら男女問わず楽しめますし、勝ち負けで「うれしい」「くやしい」といった感情が生まれますから、脳の刺激にもつながります。それに、カジノという非日常な空間そのものを楽しみにして、本場さながらにジャケットを着て、おしゃれして来られる方もいらっしゃるんですよ。こうやって楽しんでいただくことが、家にこもりがちだった高齢者の方が外に出るきっかけにもつながっているんです。

──カジノといっても、金銭のやりとりはないんですよね?

森:もちろんです。施設内で使えるのは架空通貨「ベガス」で、体操をすることでお渡ししています。負けても実際にはお金は減りませんから、気軽にやっていただけるわけです。ベガスを換金することはできませんが、貯まったらデイサービス・ラスベガス・オリジナルの記念紙幣を差し上げたり、その日に一番ベガスを獲得した方の記念撮影をして壁に貼ったり、ラミネート加工をしてプレゼントもしています。ご家庭に持ち帰ったとき、たとえばお孫さんに「おじいちゃん、これなあに?」と聞かれたりして、会話のきっかけになればいいなと思っています。


設置されているバカラやブラックジャックなどのゲームは、すべて本場から取り寄せている(左)、従来介護の現場では白いワンボックスカーが多いが、デイサービス・ラスベガスでは通所者の送迎に高級感のある黒い車を利用している(右)

これからは高齢者自身がサービスを選ぶ時代

──デイサービスとは思えない雰囲気ですね。

森:介護の現場では、「机の角が危ない」とか「スリッパだと滑って転ぶ」とか設備にこだわる施設が多いのですが、ここではそういうことはあまり気にせず、内装も飲食店などを担当している業者に依頼して、おしゃれな雰囲気にしてもらいました。送迎車はシンガポールのカジノホテルをイメージした黒塗りのワンボックスカーで、通所者にやっていただくストレッチもラジオ体操などではなく、レディー・ガガの曲に合わせてやっています。さすがにレディー・ガガと同じ動きをするのは大変なので、もっとゆっくりですけどね(笑)。とにかくカッコいいものを取り入れたサービスにしたいと思ったんです。また、何でもやってあげるのが優しい施設と思われがちですが、こちらが手を出しすぎると、できていたこともできなくなり、老いも進んでしまいます。ですので、あまり高齢者扱いをしないで自立を促すことも大切にしています。ただ、あくまでも介護が必要な方のための施設ですので、通所者が安全に楽しめるように資格を持った職員が気を配っています。

──新しい試みですが、オープンまではスムーズにいったのでしょうか。

森:今までにない業態なので、行政への申請の際には厳しく審査されました。遊技台やパチンコの設置は風営法に関わるので、警察署にも出向きました。実は最初は、架空通貨の「ベガス」で飲食できたらおもしろいかなと思ったんですが、そうすると違法になる可能性が出てくると言われたので、それにこだわるよりは早くオープンさせることを優先させ、ベガスに関しては今の貯めるだけというかたちにしました。ほかにも、ゲームは純粋に高齢者の方たちが意欲的に取り組んでいただくために使用するということを知ってもらうために、インターネット上のライブカメラで24時間見られることも伝え、認可をいただきました。

介護の現場に笑顔を生むきっかけを作りたい

───利用者の方の反応はいかがでしょう?

森:みなさん、とても楽しんでいらっしゃいますよ。そもそも一般的なデイサービスでは爆笑や拍手が起きたりすることはほとんどありません。アメリカへ行った時にカジノを見て感じたのは、参加者同士はゲームを通じてコミュニケーションできるので、言語の壁や世代間の格差がないということです。実は、今朝ここに着いたら麻雀の参加者が足りないと言われて、急きょ私が参加したんです(笑)。初めてお会いした方でも、ルールがあるのですぐに一緒に楽しめる。つまりカジノは、社交場としての役割もあるんですよね。あとここでは若いスタッフがディーラーを担当するのですが、年下の異性とコミュニケーションを取るのって、ちょっと嬉しかったりしますよね。そういう雰囲気も楽しんでいただけたらと思っています。あと、営業時間を終えて片付けていた時に、業務連絡用のホワイトボードに、「デイが一番の楽しみ。くる日が待ちどおしいよ」と書かれているのを見つけて、スタッフ全員で感激したこともありました。これは、今でも消さずに残してあります。


インタビューを受ける森さん(左)、施設では飲食できるスペースも。ほかのデイサービス施設のように食事の提供時間は決まっておらず、好きな時に食べられる(右)

──これから介護サービスは質、量ともに重要視されていくと思いますが、今後はどのような未来を思い描かれていますか?

森:「今までどのデイサービスも合わなかった主人が気に入ってくれた。本当にありがたい」と奥様に感謝されたケースもありました。そんな風に、私たちが拾いきれていない悩みを抱えている家庭って、まだたくさんあると思うんです。こうしたサービスを少しずつ広めていくことで、家に引きこもりがちだった方が出歩くきっかけになり、ご家族ともいい関係を築けたら素晴らしいことです。他社でもエステ風のデイサービスや、もっとラグジュアリーなデイサービスなんかも増えていますが、高齢者個人の趣向に合わせた選択肢はたくさんあったほうがいいと思っています。長くこの仕事をしていますが、介護の現場に明るい話題なんてそうそうありません。だからこそ、笑顔が生まれるとすごく幸せを感じます。高齢者の方は長生きされている分、辛いこともいろいろ経験されてきたでしょうが、「なんだかんだいって楽しい人生だった」と思ってもらえたら嬉しいです。また高齢者の方だけでなく、まわりのみなさんにも、楽しく、明るく、元気にすごしていただきたい。そういう思いで、今後もやっていきたいなと思っています。

取材を振り返って

あちこちから笑い声が聞こえてきたり、真剣な眼差しで麻雀牌を見つめている人がいたり。取材で訪れた「デイサービス・ラスベガス」の光景は、お昼休憩のときに手を引かれて歩く高齢者の方を見るまでは、そこが介護施設であることを忘れてしまうほど明るく賑やかでした。カジノの特性をうまく利用し、「うれしい」「くやしい」といった感情を引き出すことで、心のリハビリテーションを重視した「デイサービス・ラスベガス」。高齢者が増え、その趣向もますます多様化する今の時代。そのチャレンジは、もしかしたら未来のスタンダードとなるのかもしれません。

デイサービス・ラスベガス  PROFILE

訪問介護事業、通所介護事業を行う株式会社日本エルダリーケアサービスが始めた、カジノ型のデイサービス。通所対象者は在宅介護が必要な要支援1以上、要介護1以上で、送迎、食事にも対応。現在は東京都足立区と神奈川県横浜市に2店舗あり、今年9月にはフランチャイズ第一号店が埼玉県上尾市にオープンした。
http://www.elderly.jp/lasvegas/