WEEKLY MAGAZINE

いま注目のビジネス、スポーツ、アイテム、イベントなどを
紹介する大人のためのライフマガジン。

プロフィール

2015.2.26株式会社ビートソニック 『Siphon』プロジェクトリーダー
白熱電球のデザインとLED電球の機能性を兼ね備えた美しいLED電球『Siphon(サイフォン)』。「ダサいLEDは終わりにしよう」という挑発的なコピーとともに登場し、ネット上で資金を募るクラウドファンディングではプロダクト系プロジェクトとして日本最高額の約1440万円を集めて大きな話題を呼んだ、まったく新しいLED電球はどのように誕生したのでしょうか?開発を手がけた株式会社ビートソニックで『Siphon』のプロジェクトリーダーを務める戸谷大地さんにお話をうかがいました。

白熱電球とLED電球のハイブリッドとなる美しい電球

──『Siphon』を開発された経緯から教えていただけますか?

戸谷:LED電球自体はもう一般的に流通していますが、おしゃれなカフェや雑貨店では、今でも昔ながらのガラスの白熱電球が使われているところが多いんです。それは白熱電球の持つ雰囲気やインテリアとの調和性を大事にしているからだと思います。一方でLED電球には「省エネ、長寿命」などの長所も多いけれど、これまで「インテリアに合う照明」という視点が欠けていました。そういう場面でも使えるような電球をLEDで再現できないかなと思い、照明にこだわる人のためのLED電球をつくってみることにしたのがはじまりです。

──どんなところが今までと違うのでしょうか?

戸谷:一番大きいところはデザインですね。一般的なLED電球は軽量化のために半透明のプラスチック製カバーがついていますが、『Siphon』は白熱電球のように全面をガラスにし、発光部分も小さなLED素子を細長く並べてフィラメント風にしました。また、エジソンの時代の電球をイメージして、内側にはゴールドの塗装を施し、光もオレンジに近い色にして、暖かな光を意識してつくりました。

──苦労されたことはありますか?

戸谷:実は『Siphon』はデザイン性を優先したため、一般的なLED電球と比べて性能面では劣る部分があります。LED電球は熱さに弱いので金属の放熱部をつけないといけなくて、それがデザイン性を損なってきたんです。もし、その放熱部がなかった場合、どれくらい性能が下がるか検証したところ、寿命は劣ってしまいましたが、使っていただく方が不便に感じるほどの問題がないことがわかりました。大手メーカーさんが「LEDの寿命は10年」と宣伝されていましたが、同じ計算方法でいくと、うちの場合は約5~6年しか持ちません。でも、あえてそこは切り捨てて、思いきったデザインを選んだんです。

──なぜ、大手メーカーではこうしたデザイン性の高いLED電球は主力商品にならないのでしょうか。

戸谷:ひとつには、まだLEDの市場が発展途上だということがあると思います。最初は長時間点灯させるところ、そして明るさが求められるところなどからLEDに変わり、市場が成熟するにつれて、インテリアとしての照明が求められるようになるのではないでしょうか。一方で、LED電球は部品の組み合わせで完成するので、白熱電球と違って大規模な工場がいらないんですね。そこで、大手メーカーがまだやらない領域のものをつくろうと、当社では3年ほど前からLED電球の開発を始めまして、その新作として、高い技術力を持つ台湾のメーカーと提携して『Siphon』を共同開発したんです。


レトロな風合いを持つ「エジソン」のガラスには薄くゴールドの塗装を施し、エジソンが生きていた頃の電球を再現した(左)、発光部分は小さなLED素子を細長く並べてフィラメント風にした(右)

クラウドファンディングの成功で社内の雰囲気も変わりました

──開発にあたっては、クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で資金を調達。目標額150万円のところに、1000人以上のサポーターから約1440万円もの資金が集まりました。

戸谷:本当にびっくりしました。僕は以前、Webマーケティングの仕事をしていたので、感覚として『Siphon』とクラウドファンディングは相性がいいだろうとは思っていたんです。とはいえ、それまで大きなプロジェクトでも、達成金額は数百万円でしたからね。まさか1千万円以上も集まるなんて思いもしませんでした。

──なにが功を奏したと思われますか?

戸谷:僕はこのプロジェクトをどうしても成功させたかったので、事前にクラウドファンディングの本場であるアメリカはもちろん、日本国内の主要なプロジェクトについていろいろ勉強しました。それで、まずは多くの人に知ってもらうことが大事だと思い、デザインやモノ系を好む方々に人気のウェブメディアで紹介してもらうことにしました。そして、それが転機となってプロジェクトが話題になり、支持者が集まり、金額が大きくなって、それがまたメディアで話題になりました。この好循環が生まれたことがよかったんだと思います。あとは『Siphon』の価格設定もよかったように思います。いくら原価の高い商品でも、ユーザーが「これくらいなら買ってもいいかな」という価格でないと、ショッピングサイトでは購入ボタンを押してもらえないんですよね。おしゃれで、かつ値ごろ感があれば、Facebookで「こんなのあったよ」とシェアをしてくれる。こうしたソーシャルメディアでの拡散と、大きなメディアでの紹介、ふたつの軸で広めることができたように思います。

──クラウドファンディングの結果を得て、変わったことはありますか?

戸谷:クラウドファンディングでの成功は、資金が集まったこと以上に大きな意義があったと思います。サイトでは1ヶ月に2~3回、プロジェクトの進捗状況を報告するんですが、見ている人が制作過程を追ううちにファンになり、まわりに宣伝してくれるようになったのは、思いがけない収穫でした。あと、社内の空気も変わりましたね。それまで照明事業は売上の数%にも満たなかったので、「またやるの?」という感じだったんですよ。でも、資金調達が1週間で150万円を超えたあたりから、「今日は何百万円いったね」と言われることが増えました。そういう意味で、一番変わったのは社内の雰囲気かもしれませんね(笑)。


インタビューを受ける戸谷さん(左)、クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」に掲載したところ、当初の予定をはるかに超える1440万円もの資金が集まった(右)

仕事とは、新しい価値を創造すること

──以前はIT系企業にいらしたそうですが、そこからどういうきっかけでこのプロジェクトを立ち上げることになったのでしょう?

戸谷:車用品メーカーであるビートソニックは父の会社で、僕は今、生産技術部で在庫管理などの仕事もしています。その前は30歳までは好きなことをやりたいと、東京のIT系企業に約4年在籍していました。上場したばかりのベンチャー企業で、忙しいけれどやりがいがあって社員のモチベーションも高い、まるで毎日が文化祭の前日のようなわくわくした雰囲気を持つ会社だったんです。でもそこで、与えられた仕事をきちんとこなした上で新しい価値を創造すること、そして、その機会は自分でつくることこそが仕事なんだという意識を強く持つようになりました。また、うちの会社も積極的に新しい分野に挑戦しようという社風だったこともあり、今回このプロジェクトを進めることができたんです。

──これからやってみたいことを教えてください。

戸谷:再度クラウドファンディングを活用した開発にチャレンジしていきたいと思っています。今回やってみて、成功の秘訣は製品力が3割で、残り7割は紹介の仕方やプロモーションなど、その他の要素にあるんだと気付きました。実際、どれだけいいなと思う製品でも、紹介文がビジネスライクだったりすると、あまり伸びなかったりするんですよね。担当者が製品に愛情を持ち、伝え方や見せ方を真剣に考えてはじめて成功できます。また、新商品をつくるときって「これは大ヒットするぞ」と思ったのにぜんぜん売れなかった、ということがよくあります。でも、クラウドファンディングなら、ユーザーの反応を見ながら在庫を調整したり、サポーターへのインセンティブを変えたりできるので、打率は上がらないまでも三振は少なくすることができる。クラウドファンディングというプラットフォームは、こういうところに面白さがあるように思います。うちの会社は車用品メーカーからはじまりましたが、照明事業も含めてさまざまな分野の製品もつくっているので、新しいアイデアを思いついたらさっそく試してみたいですね。

取材を振り返って

省エネ、長寿命というLED電球の機能性を重視し、白熱電球の生産を終了していく大手メーカー。LED電球のメリットは理解しつつも、白熱電球のデザイン性や暖かな光への愛着を捨てられずにいるユーザー。照明業界にくすぶっていたこのジレンマを解消する「救世主」として登場した『Siphon』は、クラウドファンディングを通じて、LED照明に対する潜在的なニーズを浮かび上がらせた画期的プロジェクトになりました。機能性や合理性が重視され、「美しさ」や「心地良さ」が後回しになりがちな現代。インターネットの力を使ってアイデアとユーザーを結びつけた『Siphon』の成功は、新しい価値観を生み出すべく奮闘する多くのメーカーやクリエイターのもとにも、朗報として届いたのではないでしょうか。

Siphon Profile

「昔ながらの電球の美しさ」と「LED電球の性能」を追求した、まったく新しいおしゃれなLED電球。量産化に向けた出資をクラウドファンディング「Makuake」で行ったところ、国内最高額となる14,415,707円を集めたことも話題に。名前の由来は、コーヒーサイフォン。「カフェに置いてもらえるおしゃれなLED電球」というコンセプトに合わせて命名された。一般発売予定は3月下旬で、現在は先行予約販売を実施中。オフィシャルショッピングサイト「only1(http://www.only-1-led.com/user_data/siphon.php)で予約購入すると、特製クロスがプレゼントされる。