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プロフィール

2015.3.5 株式会社スマイルズ 代表 遠山正道
「商品にストーリーと、元々の持ち主のバックグラウンドを添えて販売する」というスタイルで、リサイクルショップ業界に新風を吹き込んだ『PASS THE BATON』。2009年の丸の内店、2010年の表参道店に続き、今夏には京都祗園店のオープンも発表され、伝統的建造物群保存地区での新展開に早くも注目が集まっています。この店を運営するのが、スープ専門店『Soup Stock Tokyo』やネクタイブランド『giraffe』などを手がけてきた株式会社スマイルズです。時代の感性を取り込むビジネスモデルはどのように生まれたのか、また、京都の新店舗に込められた思いとは?『PASS THE BATON』代表の遠山正道さんにお話をうかがいました。

今の感性で作る現代型リサイクルショップ

──商品もインテリアも洗練された雰囲気で、「リサイクルショップ」と呼んでいいのか戸惑ってしまいます。

遠山:『Soup Stock Tokyo』や『giraffe』もそうですが、我々は「以前からあったものをスマイルズがやるとこうなりました」というスタイルの提案をしています。『PASS THE BATON』も同じで、リサイクルショップ自体は昔からあるものですが、仕組みや世界観は、それまでとはまったく異なるものにしているんです。この店では、使わなくなったモノを、持ち主の名前やプロフィール、モノにまつわるストーリーを添えて販売します。また、モノをキュレーション、つまり編集することで『PASS THE BATON』ならではの世界観を提示しているんです。

──「リサイクル」に注目されたのはなぜですか?

遠山:もともと私は古着やアンティークが好きだったんです。でも、古着やアンティークって、アンティークショップに行くと高価なものばかりだし、リサイクルショップではタダ同然で取引されたりしているんですよね。なので、その間くらいの立ち位置で、我々の感性で作られたリサイクルショップがあってもいいのでは、と思うようになったんです。

──「ストーリーを添えて販売する」というスタイルも画期的でした。

遠山:たとえば古いワンピースがあった場合、ただ店頭に並んでいるのと、「新婚旅行でイタリアに行ったときに買いました。残念ながらあの頃のようにスリムにはなれなさそうだから、誰かが着てくれたらうれしいです」というエピソードがついているのとでは、全く違って見えてきますよね。誰がどんなときに入手して、どうして手放すのかという思いがわかると、モノの価値って変わってくるんです。また、企業やメーカーのB品やデッドストックのリメイクもしているのですが、少し手を加えることで元のモノをより魅力的にする提案をしていて、我々はそれを「プロパー越え」と呼んでいます。そういう考え方は、今までのリサイクルショップにはなかったものだと思います。

──手放す方も、愛用品を捨てるのではなくまた誰かに使ってもらうことで、少し気持ちが軽くなりそうです。

遠山:そうなんです。それにプロフィールやエピソードで、人となりが見えてくるからか、アイテムそのものだけでなく、「この人のセンスが好き」と出品者自体にファンがつくこともあるんです。そういうやりとりが楽しいと、オープン以来、定期的に出品してくださるリピーターの方もいらっしゃいます。出品は表参道店のパスカウンターで受け付けていますが、実は今、パスカウンターの受付予約が1ヶ月待ちの状態なんです。ここで一点ずつ丁寧にストーリーをうかがいながら値段を決めたりするので、どうしても時間がかかり、出品の枠が限られてしまうんです。


インタビューを受ける遠山さん(左)、表参道のレジカウンター。インテリアひとつひとつにもこだわりが見える(右)

伝統と現代的なコンテンポラリーを融合した京都祇園店

────インテリアデザイナー、片山正通さん(Wonderwall)による空間もインパクトがあります。

遠山:世界観やクオリティ、ご自身のネットワークやブランド力も含めて、片山さんにお願いして本当によかったと思っています。この店はリサイクルショップだけど、従来とはまったく異なるコンセプトだから、お客様の想像を超える空間を作りたかったんです。そこに片山さんは、高い完成度で応えてくれました。すごく熱心で、こちら側に入って一緒にブランドを作っていこうとしてくださるので、とても心強く思っています。

──この夏、3店目が京都の祗園に出店されます。

遠山:京都の店は、いかにも「ザ・京都」という感じの古い町屋で、街並みも美しいところにオープンします。この店では、京都の伝統工芸とコラボレートするなど、京都の文化を最大限に活かし、世界に発信するものを作っていきたいと考えています。百年以上の歴史のある建物を我々が引き継ぎ、次の世代に残していくという意味では「PASS THE BATON=バトンを渡す」と、ブランド名そのもののお店になると思います。

──店舗に関しては、伝統的建造物群保存地区ということで制約も大きかったのではないでしょうか?

遠山:古い日本家屋なので間取りも細かく仕切られており、勝手に壁を抜いたりもできません。我々はこれまで店内に入った時にビックリしてもらえるような空間づくりを重視してきたので、あまり自由に設計できないのは厳しいなと思ったんです。今回の内装も、丸の内店、表参道店と同じく片山さんにお願いしているのですが、現時点までの模型を見せてもらったら、制約がたくさんあったにも関わらず、入口から見通すとトンネルの先の光のように奥の坪庭が見えたり、たくさんの壁が層になった景色が出現したりする刺激的な空間になっていたんです。京都らしさを踏襲しつつ、コンテンポラリーなものと掛け合わせた、すごくおもしろい店になると思います。

──東京の2店舗とは、だいぶ違う雰囲気になりそうですね。

遠山:そうですね。『PASS THE BATON』には外国からのお客さまも多く、どうしてだろうと思って来られた方に聞いてみたら、「ユニークなお店がある」と口コミで広がっているみたいで、海外のメゾンやブランドの方が東京に来たらチェックするお店のリストに入っているそうです。海外にもリサイクルショップやヴィンテージショップはあるけど、こういうコンセプトのお店はなかったと評価してくださる。それはつまり、新しい提案ができている、オリジナルであるということです。京都の店も『PASS THE BATON』の中でのオリジナルになれば、それが強みになります。ゆくゆくは、「丸の内と表参道には前に行ったから、次は京都も行かなきゃ」というふうになればと思っています。


インテリアデザイナー、片山正通さん(Wonderwall)が手がけた表参道店の店内。大小さまざまなデッドストックのカップ約600個で作られたシャンデリアが目をひく(左)、京都祇園店は、古い町屋が建つ美しい街並みにオープン予定(右)

まだこの世にないビジネスを「作品」として形にしたい

──オープンから5年を経た今、『PASS THE BATON』に思うこととは?

遠山:実はスタート時、ビジネスとしてはなかなか利益が出づらく、手間やコストを調整していくことで、ここ数年でようやく理想形が見えてきたところなんです。あとは6年目に入って一定のブランド力も出てきていますので、これを強みにしながら新たな取り組みもしていきたいですね。たとえば車や住宅なども手がけてみたいと考えています。私の愛車はトヨタのクラウンなんですが、外装を黄緑色、内装を黄色にカスタムしているので、普通の中古車市場では引き取ってもらえないかもしれません。でも、私が「塗装するとき、工場にこの色のミニカーを持ち込みました」とか「車を走らせていると小学生が指差して歓声をあげます」なんて話をすると、元の車より魅力的に思ってもらえる可能性がありますよね。そんなふうに、『PASS THE BATON』のコンセプトやネットワークを使えば、どういったものにも広げられるのではと思っています。

──扱っている商品だけでなく、ビジネスの発想法や見せ方にもアーティスティックな感性を感じます。

遠山:私は、ビジネスは作品だと思っているんですね。アートとは、今までになかったものを暗闇の中から探り当て、形を作り出していく作業です。そういう意味では、まだこの世にない事業を形にすることも、ある種のアートだと思っています。これからも私たちがやりたいと思うこと、やるべきだと思うことを、ビジネスのフィールドで作品にしていきたいと思っています。

取材を振り返って

クールで無機質な階段を下りていった先に、高い天井までモノと色にあふれた、時代も国籍も不明なおとぎ話のような空間が広がっている『PASS THE BATON』表参道店。ここを訪れた人は、まずその空間に魅せられ、次にそれらモノに添えられたいくつもの物語に引き込まれることでしょう。斬新なアイデアと仕掛けで、誰も見たことのなかった店を形にした遠山さん。リサイクルショップの概念を覆すその試みは、それまであまり重視されてこなかった「モノのストーリー」をプラスへと転じることに成功しました。こうした新しい価値観を生み出すビジネスは、今後さらに重要性を増してくるように思いました。

PASS THE BATON Profile

商品にまつわるストーリーに加え、出品者の顔写真とプロフィールを添えて販売する、まったく新しいセレクトリサイクルショップ。個人からのみならず、企業とのコラボレーション、著名人の愛用品など、店舗独自の視点でセレクトされたユニークな商品を取り扱っている。現在の店舗は丸の内店と表参道店およびオンラインショップ。2015年夏、第3号店を京都・祇園新橋に出店予定。
http://www.pass-the-baton.com/